事件番号:JP2023-0003

                   裁 定
  申立人:
  (氏名/名称)株式会社創通
  (住所)東京都中央区 ●(省略)●
  代理人:弁護士 那須 勇太
        同 鍛治 亮太
        同 安西 みなみ
  登録者:
  (氏名/名称)Yasuko Kasagawa
  (住所)兵庫県ヒメジシ ●(省略)●

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針(以下、「処
理方針」という。)、JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下、「手続規則」とい
う。)及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則
並びに条理に則り、申立書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、以下のとおり
裁定する。

1 裁定主文
  ドメイン名「GUNDAM-PROYAKYU.JP」の登録を申立人に移転せよ。

2 ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「GUNDAM-PROYAKYU.JP」(以下、「本件ドメイン名」という。)
 である。

3 手続の経緯
  別記のとおりである。

4 当事者の主張
 a 申立人
 申立人の主張は以下のように、整理できる。

(1)登録者のドメイン名が、申立人が権利又は正当な利益を有する商標その他表示と
同一又は混同を引き起こすほど類似していること
 申立人は、「GUNDAM」の商標(以下「本件商標」という。)に係る商標登録を有している
(甲5)。本件ドメイン名は、本件商標に「プロフェッショナル野球」の略称として普通名
称となっている「PROYAKYU」とトップレベルドメインの「JP」を組み合わせたものであり、
本件商標を使用した申立人の商品及び事業を想起させ、当該表示に接した者をして、混同
を起こすほど類似している。

(2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していないこと
 以下により、登録者は本件ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していない。
ア 登録者名は本件ドメイン名と不一致で何らの関係性も見出せないこと
イ 登録者は本件ドメイン名に関係する日本の商標登録を有しないこと(甲7)
ウ 登録者は申立人と何ら関係のない第三者であること
エ 登録者が本件ドメイン名の名称で一般に認識されているという事実は存在しないこと

 (3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録又は使用されていること
 申立人は、1965年にその前身となる事業を開始して以来、エンターテインメント業界で
コンテンツ製作を行っている。特に、テレビアニメーション「機動戦士ガンダム」(以下「ガ
ンダム」という。)に関するライセンスビジネスは申立人の事業の中核を担っており、ガン
ダムに関するイベントの主催等を通じて、本件商標は、申立人の商品及び事業の商標とし
て、日本を含む全世界で広く知られている(甲2、甲3、甲4)。
 申立人は、2019年にガンダムとプロ野球12球団とのコラボレーション企画(以下「本
件企画」という。)を実施するため、本件企画用のサイト(https://gundam-proyakyu.jp/)
(以下「本件サイト」という。)を立ち上げた(甲8)。これに関連して、申立人は、その
際にデザイン等の委託会社を通じてドメイン名「GUNDAM-PROYAKYU.JP」(以下、申立人ドメ
イン名)を登録した(甲9)。申立人は、同年中に本件企画を終了し、申立人ドメイン名の
登録は、有効期間の満了によって失効した。その後2021年3月1日、登録者は本件ドメイン
名を登録した。
 登録者は、本件ドメイン名を用いたウェブサイト(以下、「登録者サイト」という。)に
おいて、本件企画で使用されていた画像を含むコンテンツをそのまま使用したうえで、日
本では禁じられているオンラインカジノに関するリンクを複数張っている(甲8、甲1
1)。
 以上のように、申立人と何ら関係を有しない登録者は、殊更に、申立人の著名な本件商
標と酷似し、申立人が使用していた本件ドメイン名を登録し使用することにより、申立人
のブランド価値を毀損する又はそのおそれがあるものであって、不正の目的で本件ドメイ
ン名を登録又は使用していることは疑いようがない。
 よって、ドメイン名は、申立人の商標と混同を引き起こすほどに類似し、登録者はドメ
イン名に関係する正当な利益を有しておらず、ドメイン名は不正の目的で登録または使用
されている。
 従って、申立人は、ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。

b 登録者
 登録者によって答弁書は提出されなかった。

5 争点および事実認定
 a 適用すべき判断基準
 手続規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原
則についてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・書類及び審問の結
果に基づき、処理方針、本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理に
従って、裁定を下さなければならない。」
 処理方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図し
ている。
 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示
と同一または混同を引き起こすほど類似していること
 (2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと
 (3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること
 b 紛争処理パネルの判断
(1)同一又は混同を引き起こすほどの類似性
 申立人は、本件商標と同一の文字を商標登録している(甲5)。また、本件商標が申立人
の商品及び事業の商標として日本で広く知られている(以下、「周知」という。)ことは顕
著な事実である。したがって、申立人は本件商標について権利及び正当な利益を有してい
ると認めることができる。
 本件ドメイン名のうち「.jp」の部分は、多くのドメイン名に共通して用いられるトップ
レベルドメインであるため自他識別力はない。「GUNDAM-PROYAKYU」の部分については、「-」
(ハイフン)が存在するため外観上「GUNDAM」と「PROYAKYU」という二つの語を組み合わ
せた文字列と認識できる。また、本件ドメイン名の「GUNDAM」の部分は周知かつ造語であ
る本件商標と同一である。したがって、「GUNDAM」の部分は強く支配的な印象を与えるとい
うことができる。次に、「PROYAKYU」の部分は「プロフェッショナル野球」の略称を表す普
通名詞であるため、それ自体が自他識別力を有する場合もあるものの、強く支配的な印象
を与える「GUNDAM」の部分と比して自他識別力が弱いものといえる。
 以上からすると、本件ドメイン名から「GUNDAM」の部分を要部として抽出して、類否判
断することが許されるといえる。よって、本件ドメイン名はその要部において本件商標と
同一であるため、本件商標と混同を引き起こすほど類似しているというべきである。

 (2)権利または正当な利益
 登録者が本件ドメイン名と同一又は類似の文字列を含む日本の商標登録を有する事実は
うかがえない。また、登録者が本件ドメイン名の名称で一般に認識されているという事実
もうかがえない。
 さらに、(3)で後述するとおり、登録者には誤認混同の意図を含む不正の目的が推認さ
れる。そうすると、商品またはサービスの提供を正当な目的をもって行うために本件ドメ
イン名またはこれに対応する名称を使用しているとも、公正に使用しているともいうこと
ができない。
 そして、申立人の主張に対して、登録者は答弁書を提出しておらず本件ドメイン名を採
用するに至った理由その他の権利または正当な利益を明らかにしていない。
 以上を考慮すると、登録者は本件ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有してい
ないと認められる。

 (3)不正の目的での登録または使用
 処理方針第4条bによれば、「(ⅳ)登録者が、商業上の利得を得る目的で、そのウェブ
サイトもしくはその他のオンラインロケーション、またはそれらに登場する商品及びサー
ビスの出所、スポンサーシップ、取引提携関係、推奨関係などについて誤認混同を生ぜし
めることを意図して、インターネット上のユーザーを、そのウェブサイトまたはその他の
オンラインロケーションに誘引するために、当該ドメイン名を使用しているとき」との事
情がある場合には、当該ドメイン名の登録または使用は、不正の目的であると認めなけれ
ばならないと定めている。
 本件において、登録者は、申立人の有していた本件サイト(甲8)の運営終了後に本件
サイトに係る申立人ドメイン名と同一の本件ドメイン名をJPRSに登録したことが認められ
る(甲1)。また、本件ドメイン名は造語であり周知な本件商標を含むものである。さら
に、登録者は、本件ドメイン名を用いた登録者サイトにおいて、申立人が本件サイト上で
使用していた画像を含む相当数のコンテンツをそのまま使用しオンラインカジノに関する
リンクを複数張っている(甲8、甲11)。そうすると、登録者が本件ドメイン名を使用す
ることにより、申立人が登録者サイトや当該オンラインカジノに関する記事を運営、管理
等していると誤信させるおそれがあり、本件商標に化体した申立人の信用、名声、顧客吸
引力等を毀損させるおそれがあるというべきである。したがって、登録者は、登録者サイ
トについて申立人との間で誤認混同を生ぜしめることを意図していると推認できる。
 登録者は、費用と労力を投じて本件ドメイン名を登録し登録者サイトを運営しており、
かつ、登録者サイトにおいてオンラインカジノに関するリンクを複数張っている。このこ
とからすると、商業上の利得を得る目的を有すること及びインターネット上のユーザーを、
登録者サイトまたはその他のオンラインロケーションに誘引するために、本件ドメイン名
を使用していることが推認できる。
 そして、申立人の主張に対して、登録者は答弁書を提出しておらず不正の目的での登録
又は使用を否定する事情は認められない。
 したがって、本件ドメイン名は登録者によって不正の目的で登録され、使用されている
というべきである。

6 結論
 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名「GUNDAM-
PROYAKYU.JP」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者が、ドメイン名に関
係する権利または正当な利益を有しておらず、登録者のドメイン名が不正の目的で登録ま
たは使用されているものと判断する。
 よって、処理方針第4条iに従って、ドメイン名「GUNDAM-PROYAKYU.JP」の登録を申立
人に移転するものとし、主文のとおり裁定する。

  2023年5月31日
   日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
          単独パネリスト    岡村 太一

別記 手続の経緯
(1)申立書の受領
   日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2023年3月27
  日に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。
(2)申立手数料の受領
   センターは、2023年3月27日に申立人より申立手数料を受領した。
(3)ドメイン名及び登録者の確認
   センターは、2023年3月27日にJPRSに登録情報を照会し、2023年3
  月27日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者である
  ことを確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及
  び住所等を受領した。
(4)適式性
   センターは、2023年3月29日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合し
  ていることを確認した。
(5)手続開始
   センターは、2023年4月3日に申立人、JPNIC及びJPRSに対し電子的
  送信により、手続開始を通知した。センターは、2023年4月3日に登録者に対し
  郵送及び電子メールにより、開始通知を送付した。開始通知により、登録者に対し、
  手続開始日(2023年4月3日)、答弁書提出期限(2023年5月1日)並びに
  書面の受領及び提出のための手段について通知した。但し登録者宛電子メール送信分
  については一部が送信不能であり、登録者の公開連絡窓口の住所に送付した通知は「あ
  て所に尋ねあたりありません」として返送された。
(6)答弁書の提出
   センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2023年5月2日
  に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、電子的送信
  により申立人及び登録者に送付した。
(7)パネルの指名及び裁定予定日の通知
  申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、センターは、2
  023年5月11日に弁理士 岡村 太一を単独パネリストとして指名し、一件書類
  を電子的送信によりパネルに送付した。センターは、2023年5月11日に申立人、
  登録者、JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、指名したパネリスト及び
  裁定予定日(2023年5月31日)を通知した。パネルは、2023年5月11日
  に公正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。
(8)パネルによる審理・裁定
   パネルは、2023年5月31日に審理を終了し、裁定を行った。